ダックス以降、模型以外の話が続く。
というか、日野熊蔵という人についてはちょっと前から調べていたのだ。
きっかけは「坂本竜馬の拳銃」
私はミリタリーマニアではない。
しかし、数年前から「日本軍の拳銃」の不思議な歴史を調べてきていた。
=>坂本竜馬の拳銃はなにか?が関係している。
それを調べるために購入した「Japanese Military Cartridge Handguns 1893-1945」
一番初めが26年式(この銃からして実に不思議)なのだが、2番目は南部自動拳銃・・
あれ?「日野式自動拳銃」・・え?
なんと、あの有名な南部自動拳銃の前に出ているのである。
そのときは「風変わりな拳銃だな」と思って終わってしまったが、のちに他の方面で
調べ物をしているうちに興味が沸いて来たのである。
日本の航空史に「断片的に登場する日野氏とは?」
NF文庫の「戦後日本民間航空のあけぼの」という戦後の民間航空会社の
話の第一章に「日本の無尾翼機開発と島飛行士」という話が出てくる。
戦前の話なのに?と思っていると、のちに戦後航空史にも関係する伊藤音次郎氏
や島飛行士とともに「茅場製作所に出入りしていた日野熊蔵氏に無尾翼機の具体案
を依頼した」とあるのである。
ここで「日野氏は、1910年12月に徳川大尉とともに日本における初飛行をした、あの
日野大尉である」と書かれている。
なんとなく聞いたことはあるが、画期的なことをした”はず”の人なのに、あまり
聞いたことがないな?と思い興味が出てきた。
さらに「中島知久平伝」では、ライト兄弟より発想したのは早かった二宮忠八氏、
自作グライダーで「日本初飛行」の奈良原男爵(この話は本になっている)話と
ともに日野大尉のグラーデ機の話が出てくる。
ここまでくると「もっと詳細を知りたい!」という思いは強くなった。
そして「日野熊蔵伝」を入手することが出来た。
この本、日野熊蔵氏の郷里(人吉)である熊本の方が執筆・出版した本で、
初版は1977年で、その後2度ほど再版されている。
この本の内容については、読んでいただくのが良い(今は古本でしか買えない
のが惜しい)と思うが、薩摩藩と熊本藩の間にあった「人吉藩(相良藩)」の話から
始まり、代々木練兵場での「日本の空を始めて飛行」までの詳細の歴史、
そしてなによりも「昭和30年代にご存命だった徳川好敏氏、「日野式一号機
(日本初の国産機(飛行は出来なかった)を製造した林田好蔵氏の孫の林田
哲夫氏提供の資料(ちなみに、その工場の場所にはプレートがある))、
伊藤音次郎氏(他にも大勢の方の記事がある)に直接取材した内容はすばらしい。
この本のおかげで、
・まずは国産飛行機(奈良原氏、日野氏など)を作ったが浮揚しなかった
・徳川大尉、日野大尉が航空技術と飛行機購入のために渡欧し、
どのような活動をしたか。
・代々木練兵場における1910年(明42)10月末~12/15の事実
・そして「日野式自動拳銃とハリー・エル・ダービー氏の著書」との関係
などが良く判った。
さて、その日野式自動拳銃である。
困ったときの「頑住吉氏の製品」
本で見るだけでなく、「実物の形をしたもの」を手にしたいものである。
苦労して、頑住吉氏の製品を入手。
入手してからも、曲がっているのを直そうとしてボッキリ折って(涙)修理する
などの苦労を経て、どうにか構造を理解出来た。
南部式自動拳銃と日野式自動拳銃、並べてみてしみじみと
実は南部式も陸軍正式にはなっていない。
(海軍はのちに青島上陸作戦のために大量購入)
南部式は1902年、日野式は1903年なのに掲載順が逆なのは面白い。
「Japanese Military Cartridge Handguns 1893-1945」の著者はHarry L.DerbyIII
&James D.Brownという方なのであるが、ハリー氏はこの日野式自動拳銃に
ついて調査をしているときに、「日野熊蔵伝」の著者の渋谷 敦氏と知り合い、
情報を共有したことが書かれている。
すばらしいことに、この”米国の本”に、日野熊蔵氏と飛行機の話が2ページも
紹介されているのである。
この本は、初版が’70年代なので、「日野熊蔵氏は日本より先に米国で広く
紹介された」ということになる。
それにしても、同じ年代の拳銃でこの両者を比べれる「やはり南部式が
実用的」と思うのは私だけだろうか?
本のおかげで、日野式自動拳銃のなぞが氷解
日野式自動拳銃はブローフォワード式という”世にも変わった方式”である。
普通の自動拳銃は、スライドが後退して排莢するのであるが、この拳銃はなんと!
バレルが前後して排莢するのである。
となると、、どうやって初弾を装填するか?なのであるが、バレルを引っ張って
行うのは「暴発したら自分の指を打ちぬく」ことがあるからである。
(注:日野氏は事故で親指を撃っている)
「日野熊蔵伝」の付録の平成6年2月5日の人吉新聞の記事に「三重県の旧家の
納屋で見つかった17丁の日野式自動拳銃('92年に見つかり、その後の経緯は
月間Gunやハリー氏の著書にも出てくる)」に「この拳銃は片手で振るだけで初弾
装填」とあるのだ。
なるほど、それで.32ACPという小口径にしては長銃身(重くして遠心力を利用)
なのか・・・と納得した。
でも、それも「ロックがうまくいかないと暴発では?」という疑問が・・・
(注:日野氏は職工が組立て中に暴発させて背中から腹部を貫通・・)
代々木公園には、徳川氏と日野氏の胸像が日本航空界草分けとして
並んで立てられているとのことである。
いずれは見に行ってみたい。